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認知症と難聴 -補聴器が自立助けるー

2008年10月15日 水曜日

 最近、当県の寝たきり・認知症が他府県より多いことが、報道された。

 約十年前に、当県の「長寿世界一宣言」を行おうとした時に、「沖縄県は確かに長寿だが、しかしその多くが寝たきり・認知症ではないか!人間として生きていないのに長寿といえるのか」と言われ、はっきり宣言できなかったことを思い出した。

 確かに、近年までわが国では長生きする人々の大部分は老衰により、寝たきりになり、認知症などになるのは、ごく当たり前のことと思われてきた。

 しかし、高齢社会が進行し、高齢者が人口の20%を超えた現在、90歳、百歳でも現役、また現役でなくても、社会活動など活発に行い、若者とほとんど区別なく活動、従来の年を取ったら老衰にあてはまらない人々が増えてきていることは誠に力強いことで、ほとんどの人が百歳を超えても人間として活発に生きていける世の中になると確信できるようになってきたことは実に喜ばしいことである。

 90歳、百歳になっても若者と変わらないぐらいに活動している人は、また老人クラブや自治会などでの講話の時の出席者の大部分は、健康面で良好であると同時に、よく聞こえているか、聞こえが悪くても補聴器を十分うまく活用している人であることである。年とともに起こってくる難聴、いわゆる老人性難聴になり、これに補聴器などで十分対応できないと、コミュニケーション障害から、人と会わなくなり、老人クラブや自治会など話が聞こえないからと会合に出なくなり、閉じ込もりとなり、寝たきり、認知症につながっていく。

 この老人性難聴、近年「耳を養っている血管の動脈硬化」によると判明、その予防・進行防止とともに、音の歪み(音の大きくなり方や濁り方が変わる。-これは内耳の音を感じる細胞への血流障害などで起こり、音は聞こえても言葉が分かりにくくなるー)も改善が可能となってきているが、すでに補聴器を必要とするほどに聞こえが悪くなってしまった人(従来70歳を超すと約半数が、90歳以上でほとんどがそうなるので、人口・高齢化率から、全国で1千万人を、当県で10万人を超える)には、適合補聴器(一人一人異なる聞こえ方に補聴器を適合・調整する)を、それも早期発見・早期対応で(いよいよ聞こえが悪くなってからでは、補聴器を使いこなせないし、使う意欲がなくなっている)対応する必要がある。

 聞こえが悪くなり出した時にすぐ対応すると(法律的にもー薬事法改正、特定商取引に関する法制度の改正ー、制度的にもー補聴器相談医制度ー適切に対応できるようになってきている)、人生はそのまま継続、場合によっては発展もさせられ、コミュニケーション良好で、家族・社会と仲良く付き合っていけ、正確な情報を得てその時代にマッチした生き方を模索、亡くなる直前まで自立、人生をエンジョイし、人間としての人生を全うすることができるので、ほとんどの人がそうなってほしい。

   ※平成19年8月23日(木)沖縄タイムス「論壇」掲載


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  • 投稿日:2008年10月15日 水曜日

講演会に磁気ループを ー難聴者が話分かるようにー

2008年10月3日 金曜日

 高齢者がふえるにつれて、きこえの不自由な人々がふえている。最近の高齢者は勉強の意欲が強く、講演会やカルチャー教室への参加が多くなってきた。

 耳の不自由さを軽減するのには補聴器があるが、うるさいばかりでことばがわからないという評価が一般的である。これは聴力と補聴器とを合わせる方法が適切でないためで、正しくフィッティングを行なえば、ことばがわかる補聴器とすることができる。しかし、対話ではよくわかっていても講演会ではききとれないということが多い。原因は感音難聴の特徴として、少し離れると声が急激に小さくなることと、周囲のわずかな雑音でも大きく影響されて、ことばがわからなくなる。これは内耳に原因があり補聴器を使っても同じである。

 講演会で話しがわかるようにするには、離れても十分に大きくきこえるだけでなく、話者のことばが周囲の雑音より大きくなるようにすればよいのである。その方法として、会場に磁気ループを設置し、補聴器の誘導コイルTを使って聴く。実際には話者が胸にマイクロホンを付け、会場にマイクロホンの設置があればそれを使い、無い場合は小形の増幅器を通して音声電流を磁気ループに流す。磁気ループとは電線を輪にしたもので、それを座席のまわりに設置し、補聴器をつけてその中に座れば話者のことばをよくきくことができる。聴衆のすべてが難聴者ではないので、会場の一部に難聴者の席を設けることになる。新しく会場を設計するときは、床下にループを配線するが、既設の会場では固定の設備ではなく、携帯用のループを床に置くことで十分に目的が達せられる。携帯用のセットは持ち運びも容易で設置も簡単にでき、低価格である。

 欧米先進国では、難聴者のために早くからこの装置を会場に設置することを義務づけている国も多く、一方、補聴器には誘導コイル受信の回路を必ず付けるようになっている。残念ながらわが国ではこの設備をもつ会場は極めて限られており、一般には設置されていない。従って国産の補聴器にはT回路のない機種も多い。

 筆者は、沖縄県で風しん児の発生に際し、難聴の調査と補聴器装用の助言を行なって以来、医学部との関係で難聴者の補聴改善に協力してきた。昨年那覇市内に沖縄補聴相談センターが開設され、ことばがよくききとれないという所持補聴器の調整を行い、有効に使えるという人がふえた。さらに進めて講演会場でも話がわかるようになることが次の課題である。誘導コイルの使用は、マイクロホンを通した補聴器とは異なっており、有効にするには磁気ループの設置方法と補聴器で聴く練習が必要となる。

 今回提案した携帯用磁気ループの活用が、長寿県沖縄全域で早急に行なわれることを期待する

 大和田 健次郎                                                         東京学芸大学名誉教授(医学博士)                                                                                  
                      

 ※平成6年11月1日(火)琉球新報「論壇」投稿掲載


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