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高齢化社会の急務  -難聴・コミュニケーション対策ー

2009年8月1日 土曜日

 老人保険福祉審議会の「公的介護保険制度」の最終報告書が提出され、高齢化社会における介護問題が現実のものとなって来ている。

 その一方で、わが国の「老人性痴呆」や「寝たきり」の状態は、他の先進諸外国とはだいぶ事情が異なっており、これは「つくられたものではないか」と言う意見も聞かれる。そういわれれば、わが国のお年寄りの難聴問題、それによるコミュニケーション障害問題は、これに該当するものの一つではなかろうか。

 わが国では、先進諸外国と比べて、補聴器の適合制度が確立されておらず、従って補聴器の不適合により、補聴器不信、不使用と言うことになっている。私どものこの約三年間の活動データによると、必要な人の十~二十人に一人しか 補聴器は使用されておらず、しかもその使用者が不適合で、十分活用しておらず、社会生活を享受していない状況にある。

 先進諸外国では、二~四年の聴覚・言語の専門教育を受け、国家認定された「補聴器適合士」が、適合ばかりでなく、補聴器使用の指導を、特に高度難聴者の場合、言葉の理解を可能にするための読唇術を含め、コミュニケーションが可能になるまで指導する。

 そして、社会はこれら補聴器使用者のために、集会場、講演会場、劇場、音楽会場などに、磁気ループを設置し(法律で義務付けているところもある)、マイクの音が直接補聴器に入ってくるようにして、難聴者も十分楽しめるようにしている。一般に補聴器はせいぜい三メートルまでの音しか拾わないので、集会場などでは三メートル周囲の雑音が入ってくるだけで、講演者の言葉などは聞こえない。しかし、補聴器を磁気ループ用の「T」にセットしておくと、マイクの音が直接補聴器に入ってきて、周囲の雑音が入ってこないので、実に快適に聞くことができる。

 このように、先進諸外国のお年よりは、たとえ聞こえに不自由になっても、自分の生活を、社会生活を、そして人間としての生活を十分享受して行けるようになっている。

 昨年わが沖縄県は「長寿世界一」を宣言したが、しかしその陰の面として、「寝たきり」、「痴呆」が多いことが問題となっている。

 これには、補聴器不信、不使用による難聴・コミュニケーション障害も、その大きな要因の一つと考えられる。従って、これらを改善し、前記のごとく社会も整備していけば、お年寄りが生きがいを感じて、社会に参加し、独立して行動し、生活していくようになり、ひいては「寝たきり」、「痴呆」を減少させることが可能となってこようし、介護する側の問題、すなわち、青・壮年層の中には、自分がやりたいことを諦めて介護に当らなければならない人も出てくることが予想されるが、これも減少させることが可能となろう。このように、社会全体が生きがいを持って、自分の人生を思い通りに生きてほしいものである。

※平成8年 5月26日(日) 琉球新報 「論壇」投稿 掲載の文です。


  • カテゴリー: 論壇
  • 投稿日:2009年8月1日 土曜日
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