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増える難聴高齢者-地域全体の取り組み必要-

2011年5月31日 火曜日

 難聴対応として、手話と筆談・要約筆記はよく知られており、各市町村の社会福祉協議会などを中心にボランティアなども多く、十分対応され、市町村役所も福祉関係者も、難聴者対策はこれで十分果たされていると思われているようである。
 確かに高度難聴者の場合、補聴器では言葉が理解できず、人工内耳を装用できない人には、手話や筆談・要約筆記は必要不可欠であるが、このような高度難聴者すなわち聴覚障害による身体障害者ニ級は、全国で約十万人で(当県では先天性風疹症候群聾を入れても二千人弱)、このうち後天性高度難聴者は口話を習得しているので、人工内耳装用で通常生活が可能となるし、先天性高度難聴者でも生後八歳ぐらいまでに人工内耳を装用すれば(四歳までに行うと、とても良好)、通常の会話に支障なくなるようになる。近年、わが国でも人工内耳装用者が増え、健聴人との会話や生活に支障を来さない人たちが増えているのは、とても喜ばしいことである。
 一方高齢社会が進行、高齢難聴者の増加が著しい。七十歳以上で約半数が補聴器を必要とするほどになるので、高齢化率が20%を超えたわが国では、高齢者の約半数が難聴なのでその数は全国で一千万人、当県で十万人を超える状況にあり、これらの人たちへの対応として補聴器が重要である。
 しかし、わが国では補聴器は不評であまり使われていない。すなわち全国で難聴者の五-十人に一人、当県では十-二十人に一人(当県某市にて実証)しか補聴器は使われていない。
 年を取って、難聴となり(高齢者の二人に一人)、補聴器を使えないと、聴こえないままでいるので、家族・社会とのコミュニケーション障害を生じ、精神的な動物である人間は、もう一人前の人間として生きていけないと自信を失い、年齢も年齢だからと人生をあきらめ、閉じこもり、寝たきり、認知症など人間として生きていけなくなる可能性が高くなる。
 前述のごとき膨大な数の難聴高齢者の80-90%(当県では90-95%)が、人間として生きていけない状況になりつつあることを、国民全員が認識し、国、地域社会全体で対応しないと、当人がかわいそうであるだけでなく、老人医療費、介護費の高騰、増税、国債・県市町村債の増加にならざるを得ず、近い将来日本全体が北海道某市のようになろう。
 難聴高齢者の早期発見(住民検診への聴力検査の組み込み)と早期対応(本人、家族だけでなく、難聴とは無縁と思っている社会全体が対応する必要があり)で、人生そのまま継続・発展でき、コミュニケーション良好で家族・社会と仲良く付き合っていけ、正確な情報が得られるのでその時代にマッチした人生を模索、亡くなる直前まで自立、人生をエンジョイ、ほとんどが人間としての人生をまっとうできれば、老人医療費、介護費、増税、国債などが改善、明るい未来に夢を描ける社会となろう。

特定非営利活動(NPO)法人沖縄県難聴福祉を考える会
附属診療所「補聴相談のひろば」相談医
野田 寛 (琉球大学名誉教授)

2007年(平成19年)7月26日木曜日 沖縄タイムス掲載


  • カテゴリー: 論壇
  • 投稿日:2011年5月31日 火曜日
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