公費で補聴器支給を -遅れている聴覚障害者の福祉ー

2009年7月1日 水曜日

 わが沖縄県の補聴器適合運動が、マスメディアのご協力とご支持を得て、この3年間に新聞報道だけでも60回を超え、テレビ・ラジオなどの報道を入れると百回に近づき、わが県ばかりでなく他県でも注目を浴びるようになってきている。

 そして、他県の聴覚障害者や耳鼻咽喉(いんこう)科医のグループなどから、その実情の講演や補聴器相談を依頼されるようになり、他県の聴覚障害者の実情を知るようになって、あらためてわが沖縄県聴覚障害者の福祉がかなり遅れていることを自覚せざるを得なくなっている。

 それは、わが県の聴覚障害者による身体障害者認定数が、私どもの補聴器適合運動による掘り起こしにより、4,500人に近づきつつあるとは言え、人口比からすると、他県のやっと半分であり(平成21年の現在も殆ど変りないようである)、特殊事情のいわゆる「風しん児」約400人を除くと、さらに低いということになる。

 高齢化が他県より進んでいる「長寿世界一」のわが県では、人口比からして、九千~1万人の認定がされているべきであり、従って公費で補聴器が支給されていなければならないわけである。そして、これが「長寿世界一」のわが県の陰の部分、すなわち関係者の間で問題となってきている「難聴によるコミュニケーション障害」により生じやすいといわれている「寝たきり」「認知症」の多さにつながっているとすると、大変な問題だと思う。

 聴覚障害による身体障害児・者の認定は、現在の国の基準では、全くの正常者の聴こえはじめの聴力レベルを「0(零)デシベル」にしたときに、平均聴力レベル70デシベル以上であるが、実際には50デシベル前後より補聴器が必要になってくる人が多いわけで、財政的に余裕のある地方自治体では、医師が「補聴器による補完が必要」と診断すれば、支給されるところもあり、両側で14万円まで支給されるところもると聞く。

 そして、聴覚障害者の諸団体が実態に合わせて、身体障害児・者の認定を50デシベルにするよう要請しているのも、このためである。

 最近、「公的介護保険」の答申が老人保健福祉審議会から提出され、高齢化社会に突入しているわが県ばかりでなく、全国的にも「お年寄りの介護」問題がクローズアップされるようになってきている。

 そして、この問題はまた、介護する側にも多くの問題を投げかけることになろう。すなわち、青・壮年層の中には自分のやりたいことをあきらめて介護に当らなければならない人も出てくることが予想され、生産人口の減少などわが国の根幹を揺るがす問題になり得る状況にある。

 そこで、年齢の進行により、だれでも遅かれ早かれ生じ得るもので、このだれにでも避けられない難聴・コミュニケーション障害を、よく適合した補聴器で補完し、充実した、生きがいのある人生を、独立して生き続けて行っていただくことが、当人は当然のこと、それを支えていくべき周辺の人にとっても、重要なことではないかと考えている。
 
※1996年(平成8年) 5月10日(金) 沖縄タイムス 「論壇」投稿 掲載の文です


  • カテゴリー: 論壇
  • 投稿日:2009年7月1日 水曜日

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