聴覚障害者の人権を考えるー気になる差別の問題ー

2009年5月1日 金曜日

 補聴器適合運動を始めて2年半、マスメディアの協力も得て、一人ひとりの聴え方の違いに合わせて補聴器を適合・調整していかなければならないことが、県民に広く認識されてきていることは、大変喜ばしいことである。

 この間、沖縄補聴相談センターで1千人を超える聴覚障害者の相談に対応し、琉大耳鼻科グループ(琉大病院、沖縄赤十字病院、浦添総合病院、豊見城中央病院の各耳鼻咽喉科補聴器適合外来)全体で、計2千人を超す聴覚障害者に接して感じることは、聴覚障害者の基本的人権が守られていないのではないかと思われることによく遭遇する。

 聴こえが悪くなり出して補聴器を勧めると、多くの人がまず着けたがらない、また着けてもなるだけ目立たないようにしようとする。これは世間一般の人に、自分は聴こえが悪いことを知られたくないためで、聴こえが悪いと分かると、人との付き合いの上でも、特に仕事の面で差別され、排除されてしまうからである。

 家族でさえも、もう聴こえないのだからと、一人の人間としての扱いをしていないような人たちをよく見掛ける。

 先日、ある相談者が、自分の仕事のための職能訓練に参加しようとして、電話で自分は聴こえが少し悪いので、前方に席をとってもらえるか否か問い合わせたところ、即座に「そのような人は対象にしていません」と、電話を切られてしまった由。これなど差別以外の何物でもない。聴覚障害者は何か悪いことでもして、そうなったというのだろうか。

 ほかの視覚や肢体などの障害者の場合に、このような扱いは恐らく受けないであろう。否、現在の日本の社会では、これらの障害者を手助けし、本人の希望を可能にするよう配慮し、努力するようになってきているのに、聴覚障害者に限り全く逆で、差別し、排除しようとするのは実におかしいと思う。

 これには、聴覚障害者の側にも問題がある。世間が差別するからと隠し、聴こえないからとあきらめてしまわないで、自分が聴こえが悪いこと、そしてどのような対応をしてほしいかを世間一般の人に分かるように主張しないと、世間一般の人はどのように理解し、手助けしてよいか分からないのも事実である。

 聴覚障害者は人口の約4%、従って当県で4~5万人、全国で4~5百万人と推定され、これらの人々の、日本国憲法に保障されている基本的人権が守られていないとすると、これは大問題ではないかと考える昨今である。

 聴覚障害者の方々には、勇気を出していただき、自分が聴覚に障害があることを隠さず、必要なことをどんどん主張していただきたいと思うし、一般の方々にはほかの障害者に対するときと同じ気持ちで、聴覚障害者の立場をよく理解し、要望を満たしてあげるように心掛け、努力し、勇気づけてあげていただきたいと思う。

 そして、双方が同じ社会の構成員として同等の立場で理解し合い、協力し合える、実りある社会になってほしいと思う。
  ※1995年(平成7年)8月30日 沖縄タイムス 『論壇』へ投稿 掲載の文です。


  • カテゴリー: 論壇
  • 投稿日:2009年5月1日 金曜日

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