増加する難聴高齢者 ―早期対応で自立した人生を―

2010年9月7日 火曜日

 高齢社会が進行、難聴高齢者が増えている。70歳を越すと約半数が補聴器を必要とするほどになるので、高齢化率が20%を越したわが国では、難聴高齢者が約1千万人、当県でも約10万人と推計される。

 これら膨大な数の難聴高齢者のうち、適合補聴器を獲得している人は10~20%、当県では5~10%と、難聴者数と補聴器販売台数とから推定される。すなわち、大部分の難聴高齢者は聴こえないままでいることになる。

 年齢が進んで、聴こえないままでいると、コミュニケーション障害により、社会・家族より遊離・孤立し、生きていく自信・意欲を失い、閉じこもり、寝たきり、認知症などにつながる可能性が高くなる。

 しかし、聴こえが悪くなってすぐ適合補聴器が得られれば(早期発見・早期対応)、人生はそのまま継続、人によっては発展させられ、コミュニケーション良好で家族・社会と仲良く付き合っていける。人生をエンジョイ、人生終焉まで自立し、人間としての人生を全うすることができる。

 一方、いよいよ聴こえが悪くなってからでは、人生に自信・意欲を失い、補聴器を使いこなせないし、その意欲が失われている。

 現実は前述のごとくで、恐らく前記推定の膨大な数の難聴高齢者の3割~半分近くは、寝たきり・認知症で要介護状態にある。では誰が介護するのか、インドネシアなどから人を雇い入れるのか。その費用は増税で賄うのか。これは今や大きな社会問題であるはずなのに、ほとんどその認識がなく、具体的対応がされないのは悲しい。

 この高齢者難聴は、耳を養っている血管の動脈硬化と判明、その予防、進行停止、「聴こえの歪み」の改善が可能となってきている。「聴こえの歪み」とは、内耳の音を感じる細胞の障害で、高齢者の場合は血液の流れの障害により音の大きくなり方、濁り方が変わり、健常者が「1」大きくなったと感じる音の変化が、2~3倍、場合によっては5~10倍に感じられる。さらに音がまっすぐ入ってこなくなるため、音は聴こえても言葉が分からなくなる現象。

 そこで、沖縄県難聴福祉を考える会では「百歳を越しても補聴器不要」のキャッチフレーズで、関心を示す市町村の自治会、老人クラブなどに出張、耳の健康講話と全員の聴力検査を毎年行い、個々に指導を行っている。いずれは住民検診に組み込まれることを望む。

 まず高齢者難聴の予防、そして難聴高齢者の早期発見・早期対応で、高齢者すべてが人生終焉まで自立し人生をエンジョイ、人間としての人生を全うしてほしいものである。

NPO法人沖縄県難聴福祉を考える会
附属診療所「補聴相談のひろば」
相談医 野田 寛(琉球大学名誉教授)

2010年2月15日(月) 琉球新報 論壇 掲載


  • カテゴリー: 論壇
  • 投稿日:2010年9月7日 火曜日

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