補聴器を装着しても、三~五メートル以上離れると聴えない。聴えが悪くなる時には、聴力が悪くなるだけでなく、音の歪(ひず)みが生じ、音の大きくなり方などが変化し、音は聴えても言葉がわからなくなる。従って、講演会などでは、例え補聴器を装着していても、演者の又はスピーカーの五メートル以内にいないと、話がわからない。
これらに対応する「集団補聴」(マイクの音を補聴装置に直接入れる)装置には、磁気ループ、赤外線、FMの三方式がある。
先般、この三方式を同時使用して比較検討したが、赤外線方式は赤外線が遮断されたりすると聴えなくなるし、FMはその人に適合したFM補聴器を使用している人には良いが、その場ですぐ聴えるようにするのが難しい。
その点、磁気ループは、その場で自分の補聴器を切り換えて(日本の補聴器の約半分にこの切換装置―Tコイル―あり)、又は貸し出し補聴器ですぐ雑音もなく、クリアに聴える。
世界の主流は磁気ループ(国際的には「ヒアリング・ループ」)で、昨年九月スイスで磁気ループの国際会議が開かれ欧米先進十五ヶ国(日本は補聴器の普及も悪く、対象外)で、�補聴器や人工内耳など補聴装置には磁気ループ対応のTコイルを装備する、�耳鼻科専門医など関係者は、難聴者に磁気ループの利便性について説明する、�公共施設に磁気ループ設置を義務付ける(米国数州では法律化されている)、�駅、銀行、病院、役所等の窓口に磁気ループ設置などが決議された由、アメリカ大使館の職員より知らされた。
この磁気ループについては、当県は私共十七年余の活動により先進県である、と云っても市民会館、劇場、講演会場また市町村議会場、役所の福祉課窓口など、約五十ヶ所、また約二百家庭(テレビ、電話など)に設置されているが、家庭をのぞいては殆んど使用されていないようだ。
設置された当初はともかく、担当者が変わると、設置してあることも知らず、当然どう操作して良いかわからなくなっているのが殆んどである。
また、貸し出し補聴器整備、補聴器の磁気ループ用への切り換え、またボリューム調整など当初は指導員の設置が必要と感じている。
まず知識の普及、使用頻度を増し、バスなどへの設置など、高齢者が聴こえなくなっても、自立し、人生をエンジョイし、人間としての人生を全うできるようにしたいものである。
特定非営利活動(NPO)法人沖縄県難聴福祉を考える会
附属診療所「補聴相談のひろば」
相談医 野田 寛(琉球大学名誉教授)