「何か云われているのはわかるが、何を云われているのかその内容がよくわからない!」と訴えられることが特に高齢者によくある。
「音としてわかっても、言葉としてわからない」、即ち音として聴こえることと、言葉として理解できることが異なることが起る。これは、音の「歪み(ひずみ)」と云って、音の大きくなり方や混り方が変って来ていることにより生じ、内耳にある約一万個の音を感ずる細胞の障害により起り、「内耳性難聴」の特徴とされている。
年齢が進んで起る難聴は、一般に「老人性難聴」と云われるが、近年内耳の血管の動脈硬化によることが殆どと、他の臓器の老化と変りないことがはっきりして来ているが、内耳血流が障害され、充分血液が来ない細胞から「音の歪み」を生じ、言葉の理解が悪化する。
これは、言葉の理解力の検査(語音明瞭度検査)にて明らかにされ、純音聴力検査による音の聴えのレベルでは軽度~中等度の難聴でも、言葉の理解力は約半分とかそれ以下になっていることも多い。(言葉の理解力が両耳共に五十%以下の時には、聴えのレベルが軽度又は中等度難聴でも身体障害者四級に認定される)。
言葉の理解力が障害されている時は、この音の歪みの度合いをそれぞれの音の高さについて測定し(アブミ骨筋反射域値と純音聴力検査域値の差が各周波数についてその度合いを数値として出すことができるー音の大きくなる度合いが変る現象を「補充現象」と云うー)、補聴器適合・調整にこれを加味して行くと、静かに、音の響きなどなく、言葉がわかり易いようにすることが出来る。
勿論、言葉の理解力は補聴器の適合・調整で改善できるわけではないが、その時点で言葉を最も良く理解出来る状況にすることが可能で、これらを加味せず、通常の計算式などによる適合・調整とは異なる結果となる。
言葉の理解力の悪い「内耳性難聴」も、言葉の理解力が改善してくることがあることが最近はっきりして来ている。
一つは動脈硬化・高脂血症(血中のコレステロール、中性脂肪など脂質系物質の上昇)による内耳血流障害(老人性難聴の殆どは、これによるものと思われる)が加療・食事療法などにより、内耳血流が改善され、障害されつつあった音を感ずる細胞が回復したと思われ、本人も聴えが良くなったと自覚する。勿論、純音聴力検査による聴えのレベルは変らない(一度駄目になった細胞は回復しない)が、言葉の理解力が改善しているケースである。
もう一つは、補聴器にて言葉をよくわかろうとしたためと思われるケースで言語明瞭度が四十%前後であったのに、一~二年後に七~八十%に改善しているケースを良く見掛ける(脳の応用力?聴き方がうまくなる?)。その表情も、補聴器をうまく使いこなせなかった人とは対照的で、非常に明るく、活気に溢れている。
従って、言葉の理解力が悪い人には特に、補聴器を使って良く聴くよう、よく人と話すよう、力づけることにしている。