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三月三日「耳の日」に寄せて

2011年3月18日 金曜日

 三月三日は、「耳の日」である。提唱した耳鼻科学会は、電話を発明したベルの誕生日でもあり、言語学者の彼が難聴の妻と直接話す工夫が電話の発明に到った由、現在の電話の有用性から、やはり記念すべき日である。
 これを提唱した半世紀前に多かった慢性中耳炎は、衛生・栄養状況の改善で、幼児期の耳管(中耳とノド-上咽頭-を繋ぐ管)の未発達から生じ易い滲出性中耳炎や急性中耳炎以外は、殆んどなくなり、学童の三人に一人に見られた慢性中耳炎による鼓膜穿孔(鼓膜に穴があく)は殆んど見られなくなった。
 近年の大問題は、高齢難聴者の増加である。七十歳以上で約半数が、補聴器を必要とする程に聴えが衰えてくるので、高齢化率が二十%を遥かに越した現在、高齢難聴者は一千万人以上、当県でも十万人以上と推測される。
 これら高齢難聴者のうち、適合補聴器を獲得しているのは僅か十~二十%、当県では五~十%(当県某市で実証)と、殆んどの高齢難聴者は聴えないままでいることになる。
 年齢が進んで聴えないままでいると、コミュニケーション障害より、家族・社会より遊離・孤立し、生きがい、生きる意欲を失い、閉じ込もり、寝たきり、認知症などに陥ち入る可能性が高くなり、要介護状態となろう。これが膨大な数なので、当然介護費、医療費に反映、増税、国債の増加に繋がろう。
 難聴は目に見えない、五体満足のためもあるが、会話に支障を来たすので、人と話さない、人前から消えて行く。従ってこんな膨大な数であることに誰も気が付いていないが、今や高齢者難聴は個人々々の問題ではなく、社会全体で取り組むべき大問題であることを、国民全体が認識すべきなのである。
 近年、高齢者難聴の大部分は耳の血管の動脈硬化と判明、従って予防・難聴進行停止が可能となり、聴えの細胞を養っている血管の流れが改善すると、音の歪(ひず)みが改善、言葉がわかり易くなることもわかって来た。
 生まれつきの難聴・聾(遺伝や妊娠中のウィルス感染など)は衆知され減少、例え聾で生まれても、又は何らかの原因で聾となっても、人工内耳・脳幹インプラント手術により、聴えを得られるようになって来ている。
 耳のもう一つの機能、平衡機能の障害の「めまい・ふらつき」も、診断・治療の進歩により、的確な対応が可能となって来ている。
 このように充分な対応が可能の時代となっているので、何かの時には専門医に相談を!

特定非営利活動(NPO)法人沖縄県難聴福祉を考える会
附属診療所「補聴相談のひろば」
相談医 野田 寛(琉球大学名誉教授)


  • カテゴリー: 論壇
  • 投稿日:2011年3月18日 金曜日
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