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「耳の日」難聴に対応し人生を楽しく

2008年7月15日 火曜日

 三月三日は語呂合わせで「耳の日」である。この日は電話を発明したベルの誕生日で、言語学者のベルの妻が難聴で、妻と何とか会話したいと工夫・製作した機器が電話の発明につながったようで、コミュニケーション手段として不可欠となった現在、やはり記念すべきと制定した日本耳鼻咽喉科学会の趣旨はうなずける。

 耳や聴こえの医学・医療が進歩し、外耳(耳と耳の穴、鼓膜まで)および中耳(鼓膜の中、内耳ー音を感じたり、身体のバランスなどを感じる感覚細胞のある部分ーまで)の疾患や聴こえの障害のほとんどは正確に診断でき、その対応、解決ができるようになってきている。

 内耳障害による難聴・耳鳴りなど、また平衡障害によるめまい・ふらつき などはかなり解明され、対応ができることが多くなってきており、内耳で音や平衡感覚を受け取り、聴こえの中枢や平衡感覚の中枢までの神経経路の障害も徐々に解明され、その対応も可能になるものも出てきている。

 このように、耳に関する医学:・医療の進歩は著しく、万一何か問題が生じても、簡単にあきらめず、専門医の指導を受けるべきである。

 年とともに聴こえが衰える「老人性難聴」(七十歳を超すと約半数が、九十歳以上で殆どが補聴器を必要とするほどになる。高齢化率が20%を超えた我が国で一千万人以上、当沖縄県でも十万人以上と膨大な数である)は、内耳を養っている血管の動脈硬化であることがはっきりしてきている。これを進行させないような食生活・日々のコンスタントな運動により難聴の進行を止められることも分かってきた(事実、私共の患者さんの八~九割はこの三~四年難聴が進行していない)だけでなく、従来改善するとは考えられなかった「音の歪(ひず)み」、聴こえの細胞の障害によって音の大きくなり方や濁り方が変り、正常な人が「一(いち)大きくなったなと感ずる音の大きくなり方が二~三倍、時には五~十倍も大きく感じられる現象ーこれは機器でその度合いを測定できるー」が改善(測定数値で出てくる)、この歪のために起こっている言葉の理解度(語音明瞭度ー正常な人は100%、これが60~70%、時には30~40%にもなる人もあるー)も改善して言葉がよく分かるようになるので、人とのコミュニケーションなどが良好となり、人生が楽しくなるからであろう、ニコニコしだす人が多くなり、最近診療が非常に楽しくなってきている。

 近年、私どもは難聴高齢者の早期発見・早期対応(いよいよ聴こえが悪くなってからでは、コミュニケーション障害のため生きる自信・希望を失うからであろう、補聴器を使いこなせないし、使う意欲がなくなっているため)を提唱、65歳以上で毎年聴力検査を、いずれ住民検診に組み込むよう提案し、老人クラブや自治会などに出張、全員の聴力検査の後一人一人解説し、前述の指導により、百歳を過ぎても補聴器不要となり得ることを言えるようになってきている。

 ※(平成20年3月3日「耳の日」、沖縄タイムス「論壇」投稿の掲載文です)


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  • 投稿日:2008年7月15日 火曜日

補聴器めぐる諸問題

2008年7月1日 火曜日

 沖縄補聴相談センターを開設して、三週間になる。すでに約百人の相談者が訪れ、予約も今年の十二月に達そうとする大盛況である。補聴器をめぐる問題がいかに深刻なのかが、実感として、ひしひしと伝わってくる。

 今年の三月三日の「耳の日」に、補聴器適合問題をマスコミで取り上げていただき、その後も数回にわたり、当問題、それを支援するボランティア・サークル(ゆんたくサークル)の誕生、当センターの開設と報道していただいたおかげで、多くの県民に理解され、問題を抱えている難聴者が当センターばかりでなく、琉大病院、沖縄赤十字病院、浦添総合病院、豊見城中央病院の補聴器外来も殺到して来ており、問題の深刻さが浮き彫りにされたように思う。

 補聴器をめぐる問題の第一として挙げられることは、国の施策の問題である。補聴器は医療機器であるから、医師の監督下に医療機器取り扱い専門業者のみが扱うべきものと考えるが、現状では県知事に届け出れば誰でも一般の電気製品と同じように販売できることになっている。補聴器業者の自主規制団体はあるものの、補聴器適合理論の複雑さもあって、「医療機器を扱っているのだ」という認識が末端販売員まで浸透していないようである。

 第二は、補聴器適合の難しさにある。一般に医院・病院で行われている聴力検査は、人間の感覚を基準にして、正常・異常が見やすいように作成されている。一方、補聴器は器械であるため、自然界の単位の音圧レベルを基準に、即ち音響器と同じ単位で作られているために混乱が生じる。補聴器を合わせる時に、一般の聴力検査の結果を換算して使うのであるが、この換算方法にも数種の理論があって、合わせる人によっても種々の合わせ方出てきて混乱の原因の一つとなっている。

 そこで、補聴器と同じ単位の音圧レベルで聴力検査を行い、これを同じ音圧レベルの図面上で各補聴器の周波数特性と合わせ、基本的な補聴理論で調整すれば良いわけである。幸いなことに、十年前より日本では、音圧レベルによる聴力検査の機器が市販されるようになり、この複雑さのほとんどが解消されている。

 しかし、音圧レベルによる聴力検査機器および補聴器周波数特性測定装置などの整備が、採算面などより、一般の医院・病院、また補聴器販売店に、ほとんど設置されていないのが現状である。

 一般にいう、”高価な品物ほど良い”という常識は、補聴器については通用しない。その人その人の、それぞれ異なる聴力を適切に補完できなければ、どんな高価な補聴器も役に立たない。十数万円もする補聴器をいくつも持って、合わないからと相談に来る難聴者をみていると、実にやりきれない気持ちになる。

 高齢化社会を目前にして、できるだけ多くの人々の、それぞれ一度しかない人生を、より充実したものにするために、この問題は放置できないと再認識させられる昨今である。 

(平成5年6月28日 沖縄タイムス「論壇」投稿の掲載文です)

 ※(「沖縄補聴相談センター」は、現在の「補聴相談のひろば」の前身で、琉大耳鼻科のスタッフを中心に那覇市安里に平成5年6月1日に開設されたボランティア組織であった。 県より、補聴器適合は医療行為なので、診療所を開設するよう指導があり、現在の形態となっている)


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