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補聴器の試聴・貸し出し -生活音環境を確認するー

2009年10月16日 金曜日

 昨年4月の補聴器に関する薬事法の改正(厚生労働省・補聴器の管理医療機器規定、販売規制、販売業者の補聴器適合義務など)、一昨年11月の「特定商取引に関する法律などの改正」(経済産業省・主に高齢者の訪問・電話勧誘・通信販売トラブル救済など)、昨年度からの「補聴器相談医」制度(日本耳鼻咽喉科学会・補聴器は医師の診断のもとに購入・適合後のチェックなど)により、適合補聴器が得られる時代となった。

 私どもの琉大耳鼻科のボランティア活動から始まった約13年の県内外での啓蒙活動、厚生労働省・日本耳鼻咽喉科学会などの働き掛けもその一助となっている。

 しかし、これらの法律改正・制度化などは、難聴者、その家族・関係者、国民の殆どは知らないので、これを周知させる必要がある。一人一人が聴こえ方が異なるので、これを正確に測定し(自覚検査なので、熟練を要する)、補聴器はどの高さの音をどうカバーしているか測定でき、調節機能がついているので、それぞれの人にどう聴こえたら良いか適合調整 できる(音として聴こえることと、言葉として理解できることが異なることも多いので、言葉の理解度の検査を行っておくと補聴器の選択を含め適切なアドバイスができる)。

 そして、聴力測定を補聴器と同じ単位で、同じ条件で耳栓やイヤーモールドー耳の穴に合わせて個人専用の耳栓をつくるーをつけて測定すると、同じ図面上で、その人の聴こえを補聴器がどうカバーしているか見ることもできる。

 このように、適合・調整して、貸し出しを行い、一人一人異なる生活環境で良いかどうか確かめてもらう。また、メーカーによって音質が異なるので、その人に聴きやすいかどうか、数社の補聴器を聴き比べると良い。殆どの補聴器は大事に使えば十年以上使えるので自分の好み、予算などよく相談して慎重に選んでほしい(国の定めた基準以上に聴力が、または言葉の理解力が悪いと、身体障害者に認定され、聴こえの変化も考え補聴器を5年ごとに支給してもらえる)。

 一人一人聴く感覚というか、音に対する敏感さなど異なり、デジタル補聴器の段階的に変化する音より、アナログ補聴器の連続的な滑らかな音が良いという人などいろいろで、やはり貸し出し試聴はどうしても必要である。

 しかし、期限内に返却しない人も多く、中には数ヵ月催促しないと返却しない人もいる。ほかに借りて試したい人もあり、これら補聴器の大部分は殆ど全販売店より当方が借用しているものなどで大事に扱ってほしいし、期限を守ってほしい(借用して行方不明となった悪質な?人はこの13年間で1人。紛失は十数人で、規定に従い弁償してもらっている)。

 前述の如く、補聴器の環境が変わり適合補聴器が得られやすくなっている。聴こえ方に不自由を感じ出したら、速やかに対応し、コミュニケーション障害による閉じこもり、寝たきりにならないで、亡くなる直前まで自立し、自分の思い通りの人生を歩んでほしいものである。
 
   ※平成18年2月18日(土)琉球新報「論壇」投稿 掲載


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  • 投稿日:2009年10月16日 金曜日

敬老の日を前にー補聴器は適合させて贈ろうー

2009年10月1日 木曜日

 「敬老の日」が近づき、お年寄りへのいろいろなサービスや提言などの中に「補聴器」のプレゼントがいつも話題になる。

 平成5年の「敬老の日」には、当時の大内厚生大臣が高齢化社会へ向けて、「ゴールドプラン」の中に「補聴器を組み込むべき」と提言、そのための審議会が発足し、実施方法が検討されつつあることは喜ばしい。

 確かに、年齢の進行とともに身体の所々に故障を起こしてくる率が高くなり、耳も例外ではなく、聴覚障害に見舞われる人が増えてくる。

 そこで、これを補聴器で補ってあげてはと考えるのは当然のことで、家族が中心となって気遣ってあげてほしいものである。

 しかし、その方法を間違えると逆効果となることも、十分認識していただきたい。すなわち、聴こえ方は一人ひとり異なり、その人その人の聴こえ方に補聴器の周波数特性を適合させ、必要な場合には何回か微調整を行って、はじめてよく聴けるようになることを知っていただきたい。

 せっかく、子供や孫が、場合によっては東京や大阪、アメリカなどから買ってきてプレゼントしたのに、あまり喜ばれず、使われなかったという行き違いを経験された方も多いと思う。しかし、これは当然で、その人の聴こえ方に合わせてなければ、どんな高価な補聴器も役に立たず、与えられた当人にとっては迷惑千万で、無用の長物なのである。

 その結果、「補聴器はガアガアうるさいばかりで、頭が痛くなり、言葉も分からないから、要らない」と、補聴器への不信感を持つようになり、もう絶対に補聴器を使わないと決心してしまう人を多く見かける。

 そして、このことは、当人にとっては当然のこと、家族にとっても、社会にとっても多きな損失である。よく聴こえないためコミュニケーションがうまくとれなくなり、家族・社会から孤立・遊離していってしまうからである。

 老人ホームなどを訪ねると、このような人々を多く見かける。そして、補聴器を適合させ、よく聴こえるようにしてあげても、「この補聴器はよく聴こえるけれど、要らない」と言う人がほとんどである。その人たちの生活状況を見ると、もはや聴く必要のない人生になっている。この人たちが聴こえが悪くなり始めた時によく適合した補聴器が与えられ、それにより人生を再構築していたら、別の人生があったのではないかと残念に思うことが多い。

 従って、補聴器をプレゼントする気持ちは大切だが、その方法を間違えると、その人の人生を狂わせてしまう可能性があることも十分認識して戴きたい。

 現代人は忙しいからと いうこともあろうが、補聴器を選ぶ時の一定の手続きを踏まず、本人抜きで勝手に購入するような、贈る側の一方的な自己満足でしかないプレゼントの仕方を含め、特に「補聴器」についてはその贈り方を熟慮して、贈られる側にも、贈る側にも、本当に満足し、理解し合い、喜び合える、よい「敬老の日」を向かえてほしいものである。

  ※ 平成8年 9月15日(日) 沖縄タイムス「論壇」投稿 掲載の文です。


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