講演会に磁気ループを ー難聴者が話分かるようにー

2008年10月3日 金曜日

 高齢者がふえるにつれて、きこえの不自由な人々がふえている。最近の高齢者は勉強の意欲が強く、講演会やカルチャー教室への参加が多くなってきた。

 耳の不自由さを軽減するのには補聴器があるが、うるさいばかりでことばがわからないという評価が一般的である。これは聴力と補聴器とを合わせる方法が適切でないためで、正しくフィッティングを行なえば、ことばがわかる補聴器とすることができる。しかし、対話ではよくわかっていても講演会ではききとれないということが多い。原因は感音難聴の特徴として、少し離れると声が急激に小さくなることと、周囲のわずかな雑音でも大きく影響されて、ことばがわからなくなる。これは内耳に原因があり補聴器を使っても同じである。

 講演会で話しがわかるようにするには、離れても十分に大きくきこえるだけでなく、話者のことばが周囲の雑音より大きくなるようにすればよいのである。その方法として、会場に磁気ループを設置し、補聴器の誘導コイルTを使って聴く。実際には話者が胸にマイクロホンを付け、会場にマイクロホンの設置があればそれを使い、無い場合は小形の増幅器を通して音声電流を磁気ループに流す。磁気ループとは電線を輪にしたもので、それを座席のまわりに設置し、補聴器をつけてその中に座れば話者のことばをよくきくことができる。聴衆のすべてが難聴者ではないので、会場の一部に難聴者の席を設けることになる。新しく会場を設計するときは、床下にループを配線するが、既設の会場では固定の設備ではなく、携帯用のループを床に置くことで十分に目的が達せられる。携帯用のセットは持ち運びも容易で設置も簡単にでき、低価格である。

 欧米先進国では、難聴者のために早くからこの装置を会場に設置することを義務づけている国も多く、一方、補聴器には誘導コイル受信の回路を必ず付けるようになっている。残念ながらわが国ではこの設備をもつ会場は極めて限られており、一般には設置されていない。従って国産の補聴器にはT回路のない機種も多い。

 筆者は、沖縄県で風しん児の発生に際し、難聴の調査と補聴器装用の助言を行なって以来、医学部との関係で難聴者の補聴改善に協力してきた。昨年那覇市内に沖縄補聴相談センターが開設され、ことばがよくききとれないという所持補聴器の調整を行い、有効に使えるという人がふえた。さらに進めて講演会場でも話がわかるようになることが次の課題である。誘導コイルの使用は、マイクロホンを通した補聴器とは異なっており、有効にするには磁気ループの設置方法と補聴器で聴く練習が必要となる。

 今回提案した携帯用磁気ループの活用が、長寿県沖縄全域で早急に行なわれることを期待する

 大和田 健次郎                                                         東京学芸大学名誉教授(医学博士)                                                                                  
                      

 ※平成6年11月1日(火)琉球新報「論壇」投稿掲載


  • カテゴリー: 論壇
  • 投稿日:2008年10月3日 金曜日

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